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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)124号 決定

参加申出人 紀平悌子 ほか六七七名

原告 越山康

被告 東京都選挙管理委員会

代理人 鎌田久仁夫 遠藤きみ 松岡敬八郎 ほか二名

主文

本件参加の申出を許可する。

理由

一  本件参加申出の趣旨は、参加申出人らは前記原告、被告間の訴訟につき原告を補助するため民事訴訟法六四条により参加の申出をするというにあり、その理由は「別紙(一)参加申出人の主張」記載のとおりである。

被告代理人は、右参加申出について異議を述べたが、その理由は「別紙(二)被告の主張」記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  行政事件訴訟法四三条二項、三八条一項により民衆訴訟に準用される同法二二条は、参加しうる者の範囲を「訴訟の結果により権利を害される第三者」に限定するとともに、その第三者につき民事訴訟法六二条の規定を準用し、共同訴訟人に準ずる強力な地位を与えているのであつて、民事訴訟法六四条以下の規定による補助参加に比し、従属性を減じ独立性を強めており、行政事件訴訟においてこのような共同訴訟的補助参加と別個に民事訴訟法六四条以下の規定による通常の補助参加を認めてもなんら支障はなく、これを認める実益もないわけではないから、右通常の補助参加は、行政事件訴訟法七条にいう「この法律に定めがない事項」にあたるものと解するのが相当である。

2  本件記録によれば、本件訴訟における原告の請求の趣旨は、昭和五八年六月二六日に行われた参議院(選挙区選出)議員の東京都選挙区における選挙を無効とするというにあり、その請求原因の要旨は、原告は東京都選挙区の選挙人であるが、右選挙は参議院議員選挙法(昭和二二年法律一七号)の定める定数配分規定をそのまま継受した公職選挙法(昭和二五年法律一〇〇号)の定数配分規定に基づいて行われたところ、同法の定数配分規定(同法一四条、別表第二)の下における投票価値の不平等は、平等選挙に係る憲法原則に照らし到底看過しえない程度に達しており、しかも、その状態は長期間にわたつて継続しているのであるから、同法二〇四条の規定に基づいて右選挙について原告が選挙人である東京都選挙区における選挙を無効とする旨の判決を求めるというにあること、参加申出人らはいずれも東京都内にその住所を有しており、右選挙の東京都選挙区の選挙人であつたことが認められる。

右事実によれば、参加申出人らは本件訴訟の判決の効力を受けることが明らかであるから、本件訴訟の結果につき民事訴訟法六四条にいう利害関係を有する第三者にあたるものというべきである。参加申出人らが公職選挙法二〇四条所定の期間内に自ら原告として訴を提起できたにも拘らず訴を提起しなかつたからといつて、右利害関係が否定されることにはならない。

3  そうすると、参加申出人らの原告を補助するための本件参加申出は理由があるから、これを許可することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六六条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 川添萬夫 新海順次 佐藤榮一)

(別紙一)

参加申出人らの主張

一 行政事件訴訟法第四三条第二項、第三八条第一項によつて民衆訴訟に準用される同法第二二条の規定は、当該訴訟において、被告適格が行政庁に法定されている関係上、該訴訟の判決の結果によつて直接自己の法律上の地位に変更を受けるという実質的な地位にある第三者の保護を図るため、この第三者をして右訴訟において被告側に立つて共同訴訟人に準じる地位において訴訟行為をする地位を与えようとするもので講学上いわゆる共同訴訟的補助参加に類する性格をもつものと解される。そして、本条の規定の存在は、民事訴訟法の補助参加の規定の適用を妨げるものではない。

二 そこで、本件参加申立人らに民事訴訟法による補助参加が認められるべきかどうかを考えると、同法に定める補助参加の要件は、訴訟の結果につき利害関係を有する第三者であることであつて、右の利害関係は単なる経済的または事実的なものでは足らず、必ず法律的なものたることを要する。即ち、それは被参加訴訟の結果が参加申立人の権利義務に訴訟上影響を及ぼす場合であつて、被参加訴訟の判決の効力が参加申立人の権利義務に及ぶものは勿論、この効力の及ばない場合であつても参加人の権利義務の訴訟につき判断の論理的前提となつている場合には補助参加することが許されるものと解すべきである。

三 しかるところ、本件選挙無効の訴訟のようないわゆる民衆訴訟では、その他の訴訟と異り、その結果によつてその権利義務に直接何らの影響を及ぼすことのない選挙人にも原告適格が認められている(公職選挙法第二〇二条、第二〇三条)。これは、このような訴訟においては、自己の権利義務につき利害のないところには訴権が否定されるという一般の訴訟における原則に対する例外として、選挙人に公益の担い手としての立場を与え、選挙の効力を自己の利害からではなく行政法規の正しい適用という公益上の立場から争う資格を認めたものにほかならず、しかも被参加訴訟の判決の効力は選挙人にも及ぶ(公職選挙法第二一九条、行政事件訴訟法第三二条)ものであつて、選挙人自らの利害は、このような民衆訴訟においては原告適格の要件とされていない。

四 したがつて、また補助参加においてもかかる自らの利害関係を要件とすることなく、選挙人である申立人らには公益上の立場から選挙無効訴訟の原告適格が与えられていることおよびこの判決の効力を受けることから、当然、補助参加の要件をも具備するものと解すべきものである(同旨昭和三〇年一二月八日最高裁判決民集九巻一三号一九六八頁)。

(別紙二)

被告の主張

一 本件補助参加の申立ては、民事訴訟法(以下「民訴法」という。)六四条の規定に基づくものとしてなされたものである。

しかしながら、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)七条には「行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。」と規定されているものの、第三者の訴訟参加に関する規定の置かれていなかつた行政事件訴訟特例法(以下「行特法」という。)とは異なり、現行行訴法には、その二二条に「裁判所は、訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは、当事者若しくはその第三者の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その第三者を訴訟に参加させることができる。」(一項)との規定が置かれており(この規定は、本訴のような民衆訴訟にも準用されている(四三条二項、三八条一項。)、この規定に基づく第三者の訴訟参加のほかに、更に民訴法六四条に基づく補助参加まで認めるべき必要性は存しないのであるから、民訴法の右規定を「行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項について」のものとして認めることはできないというべきである(参加申立人らの昭和五八年一二月二〇日付け上申書の四項に引用されている最高裁判所の判決は、いうまでもなく、行特法下のものであり、本事案につき、適切な判例とはいえない。高林克巳「訴訟参加」実務民事訴訟講座8一九七ページ以下参照)。

よつて、本件補助参加は許されないものである。

二 仮に被告の右考え方が認められず、行訴法下でも民訴法六四条の規定の適用ないし準用が認められるとの考え方がとられるとしても、そもそも本件参加申立人らは、右規定に基づく補助参加の要件である「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」に該当しないから、本件補助参加は許されないものである。

すなわち、右規定にいう「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」とは、参加申立人らの前記上申書の二項にも記載されているとおり、訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する地位にあるものに限られると解すべきところ、参加申立人らは、同人らも右上申書の三項で認めているとおり、本訴の結果によつて同人ら自身の法律上の地位に何ら直接の影響を受けるものではないのであるから、「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」には当たらないのである。

三 参加申立人らは、前記上申書の四項で、「補助参加においても……自らの利害関係を要件とすることなく、選挙人である申立人らには公益上の立場から選挙無効訴訟の原告適格が与えられていることおよびこの判決の効力を受けることから、当然、補助参加の要件をも具備するものと解すべきものである」と述べているが、この考え方は失当である。選挙訴訟において選挙人に原告適格が認められている趣旨は、まさに参加申立人らの右上申書の三項に記載されているとおりであるが、選挙訴訟で、例外的に、選挙人に公益の担い手として、原告適格が認められているということから、当然に補助参加についてまで例外的な扱いを認めなければならないということにはならない。選挙人は、公益の担い手として当該選挙の効力を争いたいと考えれば、所定の期間内に自ら原告として訴えを提起できるのであるから、そのほかに補助参加人としての地位まで認める必要性は全くないのである。

なお、参加申立人らが右上申書の四項で引用している最高裁判所判決は、選挙関係訴訟においては、選挙人は当事者たる都道府県選挙管理委員会に補助参加することができる旨の判示をしているが、前記のとおり、この判決は、行特法下での判断であるとともに、当該事案は、最高裁判所判例解説民事篇昭和三〇年度二四五ページの解説によれば、公職選挙法二〇七条に基づく「当選訴訟で被告たる県選挙管理委員会が敗訴の判決を受けた。委員会は上告しなかつたが、選挙人から上告申立と同時に補助参加の申立をし、原判決の破棄を求めた。被上告人は、右選挙人は、この判決で当選を無効とされた者の推薦届をした者であるに止まり、民訴六四条にいう「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」にあたらないと主張し、参加に付異議を述べた。」というもので、この判決の理由も、単に「選挙関係訴訟においては上告人補助参加人らは訴訟の結果につき利害関係を有する第三者に当ると認めるのが相当である」と判示されているのみであつて、具体的にいかなる点をとらえて利害関係ありとの判断をしたものかは全く不明である。そして、この判決では、前記のとおり「選挙関係訴訟においては」との表現がなされているが、果たしてこの判決が、同法二〇四条に基づく選挙の効力に関する訴訟まで含め、しかも、選挙管理委員会側ではなく選挙人側への補助参加ということまで念頭に置いて、一般的に選挙人の補助参加人適格を肯定したものなのか否かは大いに疑問である。いずれにせよ、この判決は、行特法下における本件とは異なる事案についての判断であつて、適切な判例とは認め難いものである。

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